2012年07月27日

『ニッポンの風景をつくりなおせ』(書評2012 30/50)

著者の梅原真さんは、ちょっと変わったデザイナー。というのは、仕事場は高知県の片田舎で、受ける仕事は一次産業からのオファーのみなのです。

つまり、農家とか漁師とか酒蔵とか、そういったところの仕事だけを受けて、そのクライアントの生産物を、デザインという力で世間に広めているわけですが、その仕事ぶりがわかるのは、こんなエピソードかな。

《四万十川のほとりに住んでみた。この川の流域では良質のお茶が栽培されていた。急傾斜のうえ畝が狭くて機械が入らない。そこですべて「手摘み」。おまけに、朝霧の立つ(寒暖の差のある)絶好の環境で育つお茶だった。ところがこの村で生産される茶の100%が静岡へ送られ、静岡茶となっていた》
《「なんで全部静岡に送りゆうがぜ?」ここから話は始まった》

そして、梅原さんは、「じつは茶所 しまんと緑茶」というブランドのお茶を作るのですが、これが実に美味しそうにデザインされているのです。
本当はいいものなのにデザインとか、世間へのアピール力が弱いがために、世間に埋もれているものはたくさんあると思う。また、このお茶のように、その本当の価値に当事者が気づいていないケースも少なくないだろう。こういったものを当地の生産者の目線に立って、訴求力を高めていく梅原さんの仕事は、本当に尊く、またかっこよく楽しそうだ。

それでこの本には、こういった梅原さんが手がけた仕事が、依頼人の顔写真とともに紹介されているのですが、この本自体も素晴らしいと思う。
240ページオールカラー。定価は2600円。出版社は羽鳥書店。
実は、この梅原さんのことは、今年NHKで放送された「プロフェッショナル仕事の流儀」を見て知ったのですが、その前から、梅原さんの魅力をこの完成度で凝縮させているのは編集者の高い想いがあってこそ。

デザインに興味がある人はもちろん、地域再生や、地方の食、働くとはどういうことか。日本における生産物の理想型などあらゆる興味に応えてくれるこの本は、読んでも楽しいし見ても楽しい優れもの。こんなかっこいいおじさんがいるのかと、勇気と元気をもらえる実に素晴らしい一冊です。梅原真さん、本当にスーパーリスペクト!

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2012年07月21日

『不便のねうち』(書評2012 29/50)

タイトル惚れして買った一冊。夫と3人の娘とで暮らす作者の「家事手帖」といった内容で、帯にはこんな言葉がある。

《ただ手軽に手に入れることのできる便利をなんとなく受けとるということばかりしていれば、ありがたみも感じられなくなる。実際、わたしは、いま、たいしたありがたみを数々の便利に対して抱いてはいない。そんなのは神経の麻痺ではないか》

思い方はそれぞれだろうけど「便利であることが、絶対的に正しいのか」という観点をもっている人は、それこそあの震災以降、少なくないでしょう。

やはり便利には、プラスとマイナスがあると思う。ただ、そのプラスが一見するとマイナスを凌駕するので、なかなか便利さがもつネガティブ面や、古い不便だったものがもっていた良さに目が行きにくい。ただ、この本のタイトルにもある「不便のねうち」という言葉を頭に入れておくと、不便に接するときにポジティブになれると思う。使いにくいもの。面倒なものを使うとき「これにもねうちがある」と思ってみると、とても生きやすいはずだ。

この本のなかに、こんないい話があった。
この家には、湯たんぽがひとつしかないという。そして3人の娘がいるこの家では、冬の寒い日には湯たんぽが用意されるのだけれど、それはその夜もっとも相応しい人の足下に差し込まれるという。
《仕事で帰宅が遅くなる人の足もとへ。しょんぼりやさんの足もとへ。試験中の高校生の足もとへ。卒論にとりくむ大学生の足もとへ。といった具合に》
娘たちは寝たかな。夜、作者が娘たちのベッドを見回りに行くと、まだ帰って来ていない娘のひとりの枕元に、こんな手紙があったという。
《Aへ おかえりなさい。湯たんぽ、わたしのところです。取っていいよ(わたしが寝てたら、ね)。おやすみ。Sより》

不便は物語も生み出す。ウルトラマンが3分しか地球にいられなかったり、オバQは犬が怖かったから物語が生まれた。便利ばかりじゃ、物語も生まれないのだ。


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2012年07月13日

『オシムの言葉』(書評2012 28/50)

サッカー日本代表監督も務めたボスニア・ヘルツェゴビナ出身の名将・イビチャ・オシムの半生と哲学を綴ったノンフィクション。「傑作」と前から聞いてたのをやっと読んだけど、評判通り傑作。とくにサッカー好きで読みのがしている人がいたら是非すすめたい。とにかく、オシムの知的な言葉が面白いのです。例えば、こんなインタビュー。

《−−○○がミスをしましたが。
質問の意図を汲み取ると、オシムは即座に返した。
「あなたは今までミスをしたことがありませんか?」
怒らせてしまったか。緊張した空気が瞬間、会見場に流れた。
−−……あります。
「人間は誰しもミスをしますよ。選手もミスをします。私だってミスを犯します」
とうとうと諭すように話しかける。もっともな説話に場内は静まる。
「しかし一番ミスをするのは……」、ここで一泊置くと、笑って言った。
「プレボディラツ!」
「通訳だ!」》

ミスをすることを忌避する姿勢を諭したうえで、硬直したその場を、こんなジョークで和らげる。実に知的。

前篇通して読むと感じるのは、サッカーというのは、哲学を表現する舞台なんだなということ。たとえばオシムの哲学はこんな言葉に見てとれる。

《守るのは簡単ですよ。作り上げることより崩すことは簡単なんです。家を建てるのは難しいが、崩すのは一瞬。サッカーもそうでしょう。攻撃的ないいサッカーをしようとする。それはいい家を建てようとする意味。ただ、それを壊すのは簡単です。戦術的なファウルをしたり、引いて守ったりして、相手のいいプレーをブチ壊せばいい。作り上げる、つまり攻めることは難しい。でもね、作り上げることのほうがいい人生でしょう。そう思いませんか?》

世界には、無数のチームがあり、無数の監督がいるんだろうけど、みんな哲学を持っているんだろうな。客は、ただただ楽しければいいんだろうけど、そこにある哲学が読み取れたらもっと面白くなるはず。これからも僕はサッカーを見続けるけれど、そこにどんな哲学を表現しようとしているのか。そんな視点を今よりもって見ていこうと、この本を読んで思うのでした。

あと、オシムが生まれ育った東欧地域の情勢についてほとんど無知だったところ、この本で新しい知見が得られたのも大きな収穫。無知というより事象の知識しから知らなかったところ、そこに血の通ったドラマを提示してくれた感じ。世界地図の見え方が変わるのもこの本の素晴らしいところでしょう。

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2012年07月09日

『「プロフェッショナル仕事の流儀」決定版 人生と仕事を変えた57の言葉』(書評2012 27/50)

毎週、月曜日の夜10時、NHKで放送されている「プロフェッショナル仕事の流儀」をよく観ています。

様々な業界のプロの仕事を丹念に追って「プロフェッショナル」とは何かを追求する番組ですが、週の頭にこれを観ると、僕もそうありたいと思えて刺激になる。一種の発奮材として観ている番組です。

また、この番組の素晴らしいところは、取材の対象者が「個」であるところ。民放でも、こういった仕事人にスポットを当てたものは多いけれど、そのほとんどは「組織」にスポットが当たっている。僕なんかは、組織を外れて個で仕事をしているから、余計にこういった「個」でプロフェッショナルであろうとする人たちに惹かれるわけです。

そして、こういった「個」の仕事を観ていると、これが良質な職のカタログに見えてきて、こういうものの存在は、実に大切だなと思えてくるのです。
子どもに「将来になりたいもの」と聞くと、みんな「サッカー選手」とか「お菓子屋さん」とか言うわけですが、これは仕事としての多様な像を子どもたちが知る機会が少ないからだと思うのです。もっと世の中にはいろんな仕事がある。この事実を知るだけでも、子どもたちの閉塞感は緩まり、子どもたちの夢がいろんな方向に広がることにつながるんじゃないかなと思うのです。

村上龍さんが「13歳のハローワーク」という本を作ったり、図書館でも職のカタログ的な本はたくさん出ている。こういった流れをもっと高めて、いろんな職の人が、今よりもっとたくさんの子どもたちに接してメッセージを送れる仕組みがあるといいのにね。

さて、この本はそんな番組において、プロフェッショナルな人たちが、心に留めている言葉を紹介したもの。

建築家の隈研吾さんが心に留めている言葉が印象的だった。

I like to see a man proud of the place in which he lives.
(私は、自分の場所に誇りを持つ人間を見るのが好きだ)

リンカーンが残したもののようですが、これはこの番組の姿勢そのものも言い表してるように思えるのでした。


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