2012年08月28日

『花神』(書評2012 34/50)

司馬遼太郎は、だいたい読んだかな?と思っても、何かしら残っているもので、この「花神」もまだ読み残していた一冊。主人公は村田蔵六。後年の名は大村益次郎。

《蔵六は、西郷が経た幕末とはほとんど無縁で、維新期に突如出現した。蔵六がなすべきことは、幕末に貯蔵された革命のエネルギーを、軍事的手段でもっと全日本に普及するしごとであり、もし維新というものが正義であるとすれば、津々浦々の枯木にその花を咲かせてまわる役目であった。中国では花咲爺のことを花神という。蔵六は花神のしごとを背負った》

村田蔵六が主人公の小説が、なぜ「花神」なのかという説明は、このように本文にある通り。それで、司馬遼太郎の作品には、人物を通して何かを書きたいというテーマがあるのだけど、この作品の場合は、合理主義であり技術者から見た幕末史ということだろう。村田蔵六の有名な台詞に、村医者だったとき彼が夏の暑い日に歩いていると、村人が「暑ぅございますね?」と話しかけると「夏は暑いものです」と答える。ギャグにも聞こえるこの答えだけど、一事が万事、蔵六という人はこういう人だった。つまりいわゆる英雄ではない。

《大革命というものは、まず最初に思想家があらわれて非業の死をとげる。日本では吉田松陰のようなものであろう。ついで戦略家の時代に入る。日本では高杉晋作、西郷隆盛のような存在でこれまた天寿をまっとうしない。三番目に登場するのが、技術者である。》

技術から見た日本の幕末はいかなるものか。この一点こそ、この花神の見所であり、他の作品と一線を画す要因となっている。馬にも乗れなかった百姓あがりの人間が、武士集団を倒して、日本陸軍の礎を作ったという、実によくできた物語の主役は、この作品で実に生き生きとしている。

この本を読んで行きたくなったところがいくつかできた。
ひとつは、四国の宇和島。村医者だった蔵六が抜擢されて、この宇和島藩で働くことになるのだけど、ここに蔵六が砲台を作る。それが今でも樺崎砲台跡として残っているので見に行きたい。宇和島は、天険に囲まれて独自の文化発展を遂げた場所。行きたいな。

もうひとつは、蔵六が学んだ現在の大阪大学跡地にある「適塾跡」。そしてこの作品を読んで、初めて知ったのだけど、蔵六の「足塚」なるものがあるという。

蔵六は、45歳のときに京都で刺客に襲われて右足に大きな怪我を負う。このときは一命をとりとめるも、この足が敗血症を引き起こし、死に至る。この死ぬ前に、この右足を切断する手術をしており、この切った足が師である緒方洪庵の菩提寺である大阪の竜海寺に、師の墓の隣に小さく埋められているという。ここも何かの折にお参りにでも行ければいいな。

というわけで技術者の幕末史という視点と、また行きたい幕末スポットを知れてなかなか良かった作品でした。なお、この『花神』は、司馬遼太郎の作品として、まあまあ読みやすい部類に入ると思う。某所でも書いたけど、いちばんのおすすめは、新選組の土方歳三を描いた『燃えよ剣』。脱線が多い司馬作品のなかで、上下2巻と要所だけでまとめられていて読みやすいと思う。司馬アレルギーの人は、この作品からどうぞ。

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2012年08月24日

『食べ物さん、ありがとう』(書評2012 33/50)

「日本人の栄養学講座」という副題が付いているこの本には、日本における栄養学の先駆者的存在である川島四郎さんの、驚くべき見識や行動が詰まっていて実に面白い。

京都の古本屋で見つけた1986年初版の文庫本で読んだのですが、いい買い物でした。以下、個人的に驚いた&感じ入った点を覚えた書き程度に。

○著者の川島四郎さんは、明治28年京都生まれで昭和61年没。陸軍経理学校卒業後、戦中には、軍用糧食の研究などをして、食糧産業研究所の所長などを務めた御仁。端的にいえば、日本軍を強くするためにどんなものを食べればいいのか?という研究をされていたわけです。
○ま、もちろんそういったのは、川島さんの研究の一部なんだろうけど、彼が語る「行動する栄養学」の話が面白いのです。たとえば、川島さんは、グアム島で横井庄一さんが発見されたとき、そのあと自分も現地に行って、穴の中で4日間泊まってこられる。それは、栄養学者として横井さんがどんなものを食べていたのか調べる必要があると考えるわけです。こんな栄養学者初めて知った。面白い。
○歴史のいろんな逸話の背景にある栄養学の話も興味深い。たとえば、日露戦争でロシア軍が負けたのはビタミンCが不足したから。浅間山荘事件はカルシウムが不足していたからなんて話があるんですが、たしかにあらゆる歴史の話には、栄養学というか食べ物から見た逸話があるはずなんだよな。
○実際の食生活に反映させていきたい話としては、日本にはカルシウムが少ないというのが興味深かった。ヨーロッパには国土にカルシウムが豊富なんだけど、火山国の日本の国土にはカルシウムが少ない。だから、同じホウレンソウであっても、日本のものはヨーロッパのものと比べると4倍以上、その量が違うという。カルシウムは、骨や歯を強くするのはもちろん、精神を安定させる大事な栄養素。子供には、小魚を積極的に食べさせるべきだという。
○この川島先生が91歳にして、背筋をピンとして若々しいかったわけですが、その秘訣として、こんな自身の食生活を披露されておられる。それは《腹一杯くったら頭がぼやけるので、朝と昼は普通の食事はしません。つまみ食いです》。何をつまみ食いするかというと、煮干し、とろろ昆布、銀杏、クルミ、マツの実。こんなのをポケットに入れて、つまむだけ。そして夜は、麦飯に青野菜をどっさり食べる。要するに、一日一食なわけですが、これって今流行の「南雲式」と同じ。南雲さんが提唱されている理論って、この川島理論が元ネタだったりするのかな。そのあたりはわかりませんが、なんか共通するところがあって、興味深かった。

一昔前のものだけど、かなり今にも通用する理念が多いと感じたこの本。古書といえば、小説ばかりに目が向きがちだけど、こういった実用書的なものにも、今の生活に役立つものが多いんだろうな―−。と、そんな視点も得られた良書でした。サトウサンペイさんのイラストも楽しく、読み物としても大変よくできています。


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2012年08月18日

『本当に大切にしたい日本の暮らし』(書評2012 32/50)

著者は、京都の円山公園にある宿「吉水」の女将さん。こう聞くと京都のことだから、長年に渡って代々営まれてきた宿と思うでしょうが、違うのです。この著者の中川さんが五十五歳のとき、偶然この建物と出会ったことから始まっていて、その件がちょっと興味深い。

《その建物との出会いの瞬間には、宿屋をするなどは考えていませんでしたが、決めた後に宿屋継続の条件が建物についていることを知りました。明治時代につくられた円山公園は国のものであり、そのとき建物に職業が決められ、以来その条件を守らなければ、建物を所有する資格がないとのことでした。つまり宿屋を継続する者にしか所有は認められない、という説明を受けたときは、一瞬驚きました。》

この円山公園の建物を所有するためには、代々、この建物が営んできた宿屋を引き継がなくてはいけない。ここで迷いが生じるのですが「一年に五人しか泊まらなくても宿屋には違いないでしょう」というお母さんの励ましもあって、この地で宿を始めることにしたのです。それがこの「吉水」でした。そして中川さんはこの宿をこんな風に運営していくのです。

《「自分がおすすめできることをする」となると、当然有機の食材で朝ご飯を食べていただく、テレビも冷蔵庫も部屋には置かない、小さい旅館ですから室内電話も不要、用事があったら大きな声で呼んでください、モーニングコールはしませんから目覚まし時計をお貸しします、お布団はご自分で敷いてくださいなど、プロの宿屋が聞いたら驚くことばかりでした。》

中川さんは、このように宿を始めるにあたって、他の物まねをするのではなく、自分のスタイルを貫き通した。そして、部屋の掃除にしても掃除機ではなく、ホウキを使って行なう。これらはすべて、中川さんが常日頃から意識している「ちょっと前の日本の暮らしの良さ」の実践に他ならないのです。
そのスタイルが、多くの人の関心を呼んで中川さんの旅館は、様々なところで高い評価を得ます。この本には、そんな中川さんの、食や美容やちょっとした生活のコツがまとめられているのですが、どれもそんな突飛なものではないけれど、今の日本人が忘れてしまった大切なものが多く、とくに若い人にはとても参考になると思う。

この本の最後に綴られた「増えた情報料が本当に暮らしや仕事の上で役立っているのかしら」という問いかけには、感じ入るところが多い。とくに生活を豊かにする。快適に暮らすという面においては、自分が今住んでいるところに伝えられている知恵にこそ、もっと耳を傾けるべきものがあるはず。遠くの知識を得るよりは、身近な知恵を大切にしたい。そんなこの本の教えには、共感するところが多いのでした。


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2012年08月07日

『実はスゴイ! 大人のラジオ体操』(書評2012 31/50)

タイトルがすべてを物語っている話題の本ですが、あのラジオ体操の効能をいろいろ教えてくれるのです。

《健康面として、大きく肩甲骨や体幹を動かす運動により肩コリ・腰痛が改善します。そして心地よいリズム体操を行なうことでセロトニンの分泌が促されることが期待できますので、眠りの質が上がり、同時に目覚めがよくなり、精神面でもイライラしなくなる、という効果があります。
 また有酸素運動を行なうことで代謝がよくなり脂肪が燃えるほか、これは特に女性に嬉しい効果かもしれませんが、美脚・小尻になる、二の腕が引き締まる、バストアップする、姿勢がよくなるなどたくさんの効果が期待できます》

ま、こんな効能や正しいラジオ体操のやり方が書かれているのですが、この本の主役はやはり同封されているDVDでしょう。ここにラジオ体操の第一が収録されていて、今では毎朝これを見ながらいっしょにやっているのです。で、これがけっこう気持ちいい。
とくに腕をグルグル回すのがいいんですよね。僕みたいな原稿書くためにずっとパソコンに向かっているような人は、腕を上げることが少なく、肩甲骨の回りにコリが溜まりやすい。これが、ラジオ体操を毎日やることで軽減されているんだなー。これ、けっこう実感できます。

このように、たしかにスゴいぞラジオ体操って感じなのですが、正直、この本にはもう飽きた(笑)。というか、毎日このDVDを見ていると、お手本となるお姉さんも同じ。で、ここからは企画案なのですが、これ本、結局は、ラジオ体操をいっしょにやってくれる人がいればいいのです。たしかに、ラジオから音だけ聞いてやるより、DVDで見ながらいっしょにやるほうが楽しいし、続く気がする。
それなら、もういっそ「100人のラジオ体操」といった感じで、いろんな人のラジオ体操を収録して、その中から気分でお手本の人を選べるDVDがあればすごくいいなーと思うのですが、どうでしょうか(笑)。
「昨日はイチローでやったから、今日は宮アあおいでやろうかな」とか、どうですかね? ラジオ体操のお手本なら、出演する人のイメージも向上するし、けっこう人は集まるんじゃないかな。完全な後追い企画ですが、「100人のラジオ体操DVD」どうだろうか。僕は欲しいよ。

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