2013年05月20日

『あ・うん』(書評2013 14/50)

向田邦子を乱読していたときに買っていたけど「長編小説」という文言に気が進まず長年積ん読¥態だったこの作品。ようやく読んだけど、向田邦子らしい味わい深い作品でした。概要は、表4の解説を引用しておきましょうか。

《つましい月給暮らしの水田仙吉と軍需景気で羽振りのいい中小企業の社長門倉修造との間の友情は、まるで神社の鳥居に並んだ一対の狛犬阿、吽のように親密なものであった。太平洋戦争をひかえた世相を背景に男の熱い友情と親友の妻への密かな思慕が織りなす市井の家族の情景を鮮やかに描いた著者唯一の長編小説》

長編小説といっても、昨今の長編ぶりからすれば、全然短い。これは良い意味で。最近の小説は長過ぎると思っているので、ちょうどよく密で濃く、読み応えがありました。さて、向田邦子らしいとしたのは、さすが脚本家だなという描写でしょうか。例えば、こんなの。

《「お前、いい音するね」
沢庵のことである。
「お母さんだって、音するじゃない」
「音が違うんだよ。女は子供うむと歯が駄目になるから。お前、若いんだねえ」
さと子は、母に聞かせるように大きな音を立ててバリバリと沢庵を噛んだ。門倉のおじさんが帰ってしまうと、母が二つ三つ老けた顔になるということは、言わずにおいた》

何気ない会話だけど、いろんな想いが伝わってくるし、浮かんでくる。門倉という人物は、親友の水田の奥さんが好きなのだけど、それを心に仕舞っている。それを奥さんも感じているんだけど、表に出さない。そんな二人を描いた次なる描写が、いちばん印象的だった。

《これで「もとっこ」ですよ、と門倉は笑った。目は血走り、無精ひげが伸びていた。
「むさ苦しいとこ、お目にかけてすみません。今まで債権者にやられてたもんだから。一番先に奥さんに知らせたくて」
 たみは、襟にかけていた手拭いをはずして、門倉に手渡した。髪のしずくを拭いてもらいたかった。それから、台所へ走った。灯を節約した暗い廊下を、別珍の臙脂の足袋が走った。一升瓶とコップを掴むと取ってかえし、手拭いで濡れた肩を拭いている門倉にコップを持たせた。なみなみと、あふれるほど酒をついだ。
「素寒貧になったけど、奥さん、今まで通りつきあってもらえますか」
「門倉さん。あたし、うれしいのよ」
一升瓶を胸に抱えるようにして、たみは言った。
「門倉さんの仕事がお盛んなのはいいけど、うちのお父さんと開きがあり過ぎて、あたし、辛かった。口惜しかった。これで同じだとおもうと、うれしい」
「ありがとう。いただきます」
 門倉はぐっとひと息にあけた。
 もしかしたら、これはラブ・シーンというものではないか。梯子段の途中までおりかけ、そこでためらっていた素足のさと子は息が苦しくなった。》

つまるところ、小説の面白さ、巧さって、悲しい、嬉しいといった感情を、どのように表現するのかに集約されるのかもしれない。
実は、ストーリーというのは、それほど差があるものでもなく、それだけで人を夢中にさせるものでもないのだろう。ストーリーや設定というのは、小説の基盤であって、あくまでメインとなるのは、感情や情景の描写なんだろうな―−というのが、最近、得た感覚。特に女性作家の秀作を読むと、こんな想いが強くなるのです。

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2013年05月14日

『タイニー・タイニー・ハッピー』(書評2013 13/50)

著者の飛鳥井千砂さんって、この本を手にするまで知らなかったのですが、今、新しい書き手としてとても将来を有望視されているようですね。実際、読んでみて筆力のある方だと思いました。

《東京郊外の大型ショッピングセンター「タイニー・タイニー・ハッピー」。略して「タニハピ」。きょうも「タニハピ」のどこかで交錯する人間模様。結婚、恋愛、仕事に葛藤する8人の男女をリアルに描いた甘くも胸焦がれる、傑作恋愛ストーリー》

裏表紙のリードからこの本の概要を抜粋するとこんな感じでしょうか。恋愛ものとか普段まったく読まないので、久しぶりにこういうの読んだなー。

それで面白かったというか、とても参考になったのが、視点の面白さ。タニハピというひとつのショッピングセンターを舞台に描かれるドラマは8つ。それも8人分、それぞれの視点で、描いているのです。

こんなこと小説技法としては初歩の初歩なんだろうけど、視点を交錯させることによって、ちょっとしたことがミステリー仕立てになるのが、面白いなぁと個人的には思った。

「僕は彼女が好き。でも彼女はどう思っているんだろう……」
こんな僕視点のドラマがあって、その次に
「彼はいつも私に興味がないように思える」
なんて私視点のドラマがあると、自分からは分かり得ない他人の気持ちというのが、ちょっとした謎のようなものになって、読者を魅き込んでいく。
視点の設定によっては、人の気持ちとか、人の感覚というのも充分、物語の核になるなぁと思った次第。神視点で書かれたものは、純然たる謎しか謎足り得ないけど、人物視点の小説は、こういったところが強みになりますね。

このショッピングセンターの中央にシンボルツリーがあるんだけど、この木を8人がいろんな想いで見ているのも印象的でした。木の表情は普遍でも、それを受け取る人の気持ちは多種多様。こういったところも心に残った良作でした。

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2013年05月09日

『小さいおうち』(書評2013 12/50)

概要は、帯にあるこんな文句がわかりやすいかな。

《昭和10年に建った、赤い屋根の洋風住宅。若く美しい時子奥様と一家につかえた女中・タキの日々。だが時代の嵐は彼らの小さいおうち≠も巻き込んでゆく》

『永遠のゼロ』というのは、零戦に乗った男の人生を追うことで、あの戦争の時代を見せてくれたわけだけど、この『小さいおうち』というのは、赤い屋根のモダンな家で女中として働いていたタキさんの回顧で、あの時代を見せてくれるわけです。

それで、これが実によいのは、女中さん視点ということで、戦中の食糧難がどのような速度で一般人が感じられるようになったとか、息子が小学校でどのようなものをもらってきたとか、そういった市民視線の戦争が、上手に語られている点。それは単純に辛いといった一語では語られるものでなく、もっと幅広い感情、喜怒哀楽があったという、いわば当たり前のことなんだけど、ややもすると「悲惨」といった一言で括られてしまう時代の、動きを上手に見せてくれる。
僕は、食の描写が好きなのですが、この本では、旦那様へのお膳を作るところがよかったな。

《奥様が目で促すので、わたしはお勝手に戻って、旦那様のお好きな菊正をお銚子に七分めまで注いで、お猪口といっしょにお持ちする。火鉢にかかった鉄瓶にお銚子を沈めて、ぬる燗の番をなさるのは奥様で、その間にわたしはお勝手にとって返して、つまみを見繕う。旦那様はふだん、お一人での晩酌はあまりなさらない方だったが、召し上がるときにはご飯のおかずではなくて、ちょっとしたおつまみを好まれる。お晩酌用になにか用意しているわけではないので、あるもので工夫して、小さく切って焼いた油揚げに山葵漬けを詰めてお醤油をひと垂らししたり、缶詰のコンビーフをサイコロに切って、お葱といっしょにちょっとあぶったりして、お膳にお持ちするとちょうどよい頃合に、お燗がついているのだった。》

時代の動きよりも、個人の動きを見せるわけで、こういった所作は、女性作家が得意とするものだと思う。帯に山田洋次監督による「映画化決定」とあるけど、これはハマると面白いでしょう。そのうち朝の連ドラのモデルになってもいいだろうな。

なんとなく感じるのは、男性は設定、構成も妙で魅せる。
女性は、視点の妙、それも細かい生活の機微を綴るといったところで魅せる。
男と女でそんな単純に分けられるものでもないけど、そういった大別はあるんじゃないかなと、この作品を読んでみて改めて思いました。

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2013年05月08日

FC東京親子サッカークリニック

サッカークリニック2.jpgそういえばこの4月から、上の子どもが小学校に入りました。都内なのに1クラスしかない古くて小さな学校なのですが、なんか味わいあっていいんですよ。先生方も楽しく優しく、毎日嬉々として通っています。そんな息子が地域のサッカークラブに入って、俄然サッカー熱が高まってきたところに、FC東京が主催する親子サッカークリニックなるイベントがあると知ったので申し込んだところ見事当選。それで、5月6日のジュビロ戦の前に参加してきたのでした。
会場は、味スタの隣りにあるアミノバイタルフィールド。この人工芝のフィールドからして物珍しく、始まる前に二人でポンポン蹴ってるだけでも楽しかったな。それでFC東京のコーチが親子でやるエクササイズなどを教えてくれて、親子で手をつないだままやるミニゲームや、親チームと子どもチームの対戦などで、あっという間の1時間でした。
どれも、それほど難しいものじゃないけど、コーチが教えてくれて、みんなでいっしょにやる雰囲気がいいね!これからの子どもイベントはこういった参加型こそ、主流になるんじゃないかなー。そういう意味では、サッカークラブは、子ども向けのイベントをもっともっとやって欲しい。事業的にもひとつの核になるんじゃないでしょうか。

ま、それはさておき、最後には、平松選手と林選手も来てくれてみんなで記念撮影。あ、そういや選手が来たときに参加者全員が見守る中、質問タイムというのがあったのだけど、うちの息子が「はい!」といの一番に手を上げて指名されていた。この積極性は誰の遺伝なんだろう^^: もしや何も考えず手を上げただけなのでは?と思ったけど「どうしたらサッカー選手になれますか?」と模範的な質問をしてたね。やる〜。

その後は、味スタに移動してジュビロ戦を観戦して、盛りだくさんの一日が終わりで、あー楽しかった! コーチの方々も優しく楽しく、とてもいいイベントでした。おわり。

*話は全然変わりますが、明日発売の《読売KODOMO新聞》という読売新聞が発行する小学校新聞で『目でみることば』を大きく紹介してもらっています。手にとる機会のある方おられたら見てやってくださいませ。 
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